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モータージャーナリスト先川知香さんが観たiBのほんとうの姿

 
 
2020.06/29

 先川知香さんが観たiBのほんとうの姿  第7回

未来志向の内燃機屋さん「井上ボーリング」では、いったいどのような人たちが、どんな仕事をしているのでしょうか。実際に、インタビューをさせて頂きました。
 
インタビュー7人目は、ホーニングを担当する吉岡 拓図さんです。

ホーニング担当 吉岡 拓図(よしおか たくと)さん



第一印象は、職人さんというよりもエリートサラリーマン。
インテリな雰囲気を醸し出す吉岡さんの前職は、原料から鉄を作り出す製鉄所で、
溶けた鉄が流れるラインの補修作業を担当していたそうです。
 
当時、転職をしたいとは考えていなかった吉岡さんでしたが、知人に井上ボーリングを紹介されたことをきっかけに、「もう 1 度、二輪業界で働いてみようかな?」という気持ちがこみ上げて来たそう。

 
実は、吉岡さんは製鉄所で働く前はバイク屋さんで販売スタッフをしていたのですが、『ザ!接客業』である販売スタッフの仕事が自分には合っていないと感じ、 1 年で転職をした過去を持っています。
 
そんな吉岡さんが井上ボーリングと出会い、二輪業界に戻りたいと考えた理由は、もちろんバイクが好きだから。
しかも、並みのバイク好きではなく、鉄工所で働いていたころから、生活の中心はバイクレースへの参戦という、かなり重度のバイク好きです。
 
そのため、レース中心の生活を送る中で、製鉄所は特にやりたい仕事という訳ではなかったものの、シフトに融通が利く職場環境に不満はありませんでした。
 
しかし、知人に井上ボーリングの求人を紹介され、「大好きなNSRの世界で名を馳せている、井上ボーリングというスゴイ会社で働くチャンスが目の前にあるのか。」と、心が揺らぎ、面接を受けてみることにしたそうです。
 

 
「僕、ライダーでいいですか?」
これが吉岡さんにとって、職場を決める第一条件でした。
 
「バイク屋さんを辞めた理由のひとつでもあるのですが、イベントで自分は走れないんですよ。
楽しそうに走っているお客さんを見ながら、なんで自分は走れないんだろうって。自分はコースにいるべきだと思ってしまったんです。
もちろん、それだけではありませんが、自分がライダーでいられる事が、自分の中では必要な条件だったので、その当時はそこをとても気にしていましたね。」
 
そして、その質問に対する井上社長の答えは、
「うちは、自主性をすごく重んじている会社なので、それは吉岡君次第だよ。」というものだったのです。
 
働きながらも、自分次第でライダーでいることができる。
そんな期待感と、元々持っていた憧れ、そしてバイクに必要なパーツが自分で作れてしまう環境など、レースをするには最高の会社だと確信した吉岡さんは、井上ボーリングへの転職を決めました。
 
 
 
「今も、NSRのステップを開発しています。
1 度は完成し、商品化を考えたのですが、レーサー化した自分のNSRをベースに開発を進めていたため、ノーマル車両には装着できないことが発覚して・・・。作り直しているところです。」
 
バイクレースへの参戦に理解があるだけでなく、自分が欲しいものを作ることで、商品開発の一端を担うことができる。
趣味に生きる人にとって、これほど最高の環境は、なかなか見つかるものではありません。
 
それは、今この原稿を書いている私自身がひしひしと感じている事で、好きなことが好きなままで続けられる仕事なんて、そうそうないのです。
そう考えると、やはりこの出会いにも、出会うべくして出会ったと言わざるを得ない、不思議な縁を感じずにはいられませんでした。
 

 
そんな吉岡さんの現在の仕事は、ホーニング担当。ボーリングされた製品の荒い削り面を、砥石で滑らかにすることで面粗度を良くする、最終仕上げの工程です。
 
「面接で、レースをするには最高の環境だと確信したものの、入社した当時は正直、どういう仕事があるのかよく分かっていないぐらい未経験分野の会社でした。
 
でも、結構細かいところにまでこだわる性格なので、今では 1000 分台まで気にしながらの金属加工は楽しいし、遣り甲斐を感じています。
 
今後は、マシニングセンターなど、会社にある一通りの機械をある程度自由に動かせるようになって、思いついたものが自分一人でも作れるようになりたいと思っています。」
 
好きなことを仕事にしても、好きなまま続けていける。これは一見簡単なように思えますが、実際に実現するのはかなり難しく、多くの人が『好きだったこと』を仕事にした途端、『嫌い』になってしまうのが現実です。
しかし、趣味に生きる吉岡さんの理想を、自然に叶えてしまう。そんな働き方が、井上ボーリングにはありました。
 
 
 

 

文/モータージャーナリスト 先川 知香