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モータージャーナリスト先川知香さんが観たiBのほんとうの姿

 
 
2020.06/24

 先川知香さんが観たiBのほんとうの姿  第5回

未来志向の内燃機屋さん「井上ボーリング」では、いったいどのような人たちが、どんな仕事をしているのでしょうか。実際に、インタビューをさせて頂きました。
 
インタビュー5人目は、治具ボーラーを担当する森田 裕一さんです。

治具ボーラー担当 森田 裕一(もりた ゆういち)さん



 
親の知人の紹介で入社した、クルマや医療機器の部品を製造する工場で、機械加工という技術に出会い、その魅力に夢中になった森田さんは、前職を 12 年間勤め上げ、この技術を生かした他の仕事もやってみたいと一念発起。転職を決意したそうです。
 
そして、ハローワークへ行ったところ、以前からバイクのメンテナンス雑誌「モトメンテナンス」を読んで興味を持っていた、井上ボーリングの求人を発見。機械加工の技術が生かせるだけでなく、趣味のバイクにも携われるという、森田さんにとっては理想的な募集内容に、すぐに応募することを決めました。

 
井上ボーリングにとってもその時期はちょうど、長年勤めてくれていたベテラン治具ボーラー職人の駒林さんが、年齢による引退を考えていた時期で、後を継いでくれる職人を探していたそうです。
 
しかし、駒林さんほどの技術者はそうそう見つかる訳がないと、諦めかけていた時に応募してきたのが森田さんでした。
 
私は、運命とか引き寄せの法則とか、少し他力本願染みた事柄は、あまり信じない方なのですが、井上ボーリングで働く人たちの話を聞けば聞くほど、そういった非科学的な事象が本当に存在するのではないかと、少し信じたくなってしまいます。
井上ボーリングの社員さんたちは、この場所で働くべくして働いている人たちの集まりなのです。
 
そして、だからこそこの会社での仕事が大好きで、誇りを持って働いている人ばかり。この環境が、井上社長の少し楽天的とも言える未来志向の原動力となり、どんどん新しい発想が生まれていくのだと確信しました。
 
自分の仕事が大好きで夢中になれる集団が、いい物を生み出せないはずがないのです。
 

 
そんな森田さんが現在担当しているのは、もちろん治具ボーラー。工作機械を使う際に、装着するパーツの位置決めなどを正確に行なうために、材料を支える工作道具=治具を製作する工程です。
 
しかも、この治具ボーラーという機械と森田さんの技術にかかれば、古いバイクのメンテナンスやレストアをした時に、ほとんどの人が 1 度は経験する失敗と言っても過言ではない、ボルトの折れこみ除去や、減ってしまったブッシュの入れ替えなど、地味なようでかなり困難な問題を、解決できてしまいます。
 
 
 
「プラグを強く締めたらプラグ穴をなめてしまったとか、排気のスタットボルトが折れてしまったなどの依頼が一番多いのですが、なかには、ドローンに搭載されたエンジンの、カムシャフトのジャーナルに対して垂直にボーリングして欲しいというものや、船外機に搭載されている、 V 6 気筒の 2 ストエンジンをボーリングして、シリンダースリーブを打ち換えて欲しいなど、驚くような内容も多々あります。
社長は、そういった困難な依頼は断ってもいいよと言ってくれるのですが、やはり難題を解決できると達成感が大きいんですよね !
 
 
 
森田さんにとっての機械加工の面白さは、ただの金属の塊が加工をすることで部品になって、その部品が機能するという点にあるそうで、その技術を応用しながら試行錯誤することで、お客さんの突飛な依頼を解決していく事にも遣り甲斐を感じているそうです。
 
私は、井上ボーリングは壊れた古いバイクのエンジンを加工し、耐久性を向上させてくれる会社というイメージを持っていましたが、バイク以外のエンジントラブルも対処できる対応力の高さに、驚きを隠せませんでした。
 

 
このインタビュー中にも、井上社長は冗談交じりに「難しすぎる依頼は、断っちゃえばいいのに。」と笑っていましたが、どんな難しい依頼も解決しようとする森田さんの姿勢は、やはり社長の未来志向やチャレンジ精神にピッタリと重なる気がします。
 
「旋盤もやるし。 CAD もやるし、マシニングもいじるし、オールマイティーに全部やっています。
近い将来、井上ボーリングオリジナルの削り出し部品を作りたいですね。
最近では、当社の人気商品となっているラビリンスシール LABYRI のデザインを考えて商品化しました。
機能性が高いことは前提ですが、カッコよさも大事だと思うんです。」
 
バイク、そしてモノづくりが大好きな人たちが集まって、大好きな仕事を極めて追求していくだけで、会社が前に進んでいく。簡単なようで一番難しい、「好きを仕事にしたい」と考える人の理想の働き方が、井上ボーリングにはありました。
 
 

 

文/モータージャーナリスト 先川 知香