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バイクを愛してしまったら、手入れしてあげたくなるのは自然なこと。

 
 
2023.05.29

 先川知香の乗って感じた!
 第19回

iB 現場潜入レポート(1) ボーリング・ホーニング

古いバイクのエンジンが壊れたら、ボーリングや ICBM(R)でかなり頑丈に直してくれるという、井上ボーリングに対する漠然とした信頼感や技術力の高さは、旧車バイクファンの間では認知されていると思うのですが、ボーリングって実際には何をするの?という具体的な部分はイマイチ分からない。そんな人は多いと思います。
 

 
かく言う私も、その一人。かなり昔、 IBレディをさせてもらった事がきっかけで、 10年弱ぐらいの長~いお付き合いになる井上ボーリングですが、実際にどんな工程を経てエンジンが修理されて行くのか、理論上でしか知らないというのがホントのところ。

そこで、今回は「ボーリング」と「ホーニング」の作業を見学させて頂きました。
 

依頼内容はヤマハ「RZ350」のシリンダーボーリング(プラトー仕上げ)

 
ちなみにエンジンのボーリングというのは、シリンダーの内部を削って、内径を広げること。ボーリングをおこなうことで、オーバーサイズのピストンを使ってボアアップをすることが可能となります。
 

 
 
井上ボーリングでは、まずツールプリセッタで工具径を微調整。その後、シリンダー下面の掃除も兼ねて面出しをおこない、平らな治具の上に置いた際にガタつかない事を確認します。
 
確認が終わったら、マシニングセンターにシリンダーを固定して芯出し。芯出しと言うのはシリンダーの中心を計測しながら見つけることで、工具がどの面にも均等に当たるように工具位置がシリンダーの中心に来るように調整する事が目的です。
 
そしてシリンダーを置く位置が決まったら、ダイヤルゲージと鏡を使って、倒れが無いかの最終確認。こういった微妙な歪みに対する入念なチェックが、井上ボーリングのこだわりポイント。 1/100mm単位で性能が変わってしまうボーリングだからこそ、かなり慎重に製品自体の倒れやズレを確認した上で、作業に入ります。
 

 
マシニングセンターに工具(ボーリングバー)を装着し、数値をプリセットしているので間違いはないのですが、さらに試し削りで確認をした上で慎重に慎重を重ね、ボーリング作業が進んでいきました。
 
今回の依頼は、ヤマハ「 RZ350」のシリンダー内径を 0.25mmアップさせる事。 RZ3502気筒なので、上記の作業をシリンダー 2個分繰り返せば、ボーリング作業は終了です。
 

ボーリング作業が終わったら、次はホーニング作業

 
ホーニングは、ボーリングが終わったシリンダー内壁を専用の砥石で磨く、仕上げの工程。さらに今回はプラトー仕上げという依頼なので、通常のホーニングより丁寧に細かく研磨する、プラトーホーニングが行われます。
 

 
まずは、シリンダーポートの面取り。ポートの面取りは文字通りポートの角に面をつける作業で、硬めの砥石で面取りをした後に、柔らかいゴム砥石で表面を滑らかにしていく流れです。
 
過去にはホンダのレース部門「 HRC」製エンジンのポート面取りも、井上ボーリングとして担当していた事があるそうで、 HRCが認めた精度の高さも自慢のポイント。
ちなみに HRCが手掛けるレース用エンジンでは、このポート面取りの精度で馬力が大きく変わることが有るほど、重要な工程だそう。
 
気を抜いて、うっかり削りすぎてしまうと、不良となってしまう油断できない作業でもあるそうで、この日、見学させて頂いた工程の中でも、かなり時間をかけて丁寧に行っている光景が印象的でした。
 

 
そして、ポートの面取りが終わったら、熱で膨張した際に真っすぐになるよう計算された楕円形状となっているピストンの、一番太い部分探し。そのサイズに、ボーリングしたシリンダーが合っているかをキッチリと計測し、最後は長年の経験と勘を元にホーニングマシンをセットします。
 
その後は何度も何度も機械を動かしては止め、微調整を繰り返しながら、荒削りのホーニング。さらに砥石を変えて、プラトーホーニングが行われていきました。
 
ちなみに、プラトーホーニングは従来のホーニングの 10分の 1の細かさまで、シリンダー内壁のピストンが当たる部分を滑らかにする仕上げ。それでいて、オイル溜りの溝はしっかりと残っているというのがポイントだそう。
 
プラトー仕上げにすることで、シリンダー内壁の滑らかさとオイル溜まりの深さによって形成された油膜によって、組み立てた直後から慣らし運転が終わったレベルで、ピストンとシリンダーの馴染みが良くなり、気持ちよく吹け上がるエンジンになるそうです。
 

 
最後は、表面の粗さや輪郭形状を測定する機械でキッチリ計って、基準値をクリアしていれば終了。ボーリング・ホーニング共に完成となります。
 

 

 
 
実際に、ボーリングとホーニング (プラトー仕上げ )の作業を見た感想は、想像以上に繊細で細かい、手間のかかる作業なんだなという驚き。
 
RZ350のエンジンが不調!と言う人はもちろんのこと、 2ストでも 4ストでも大排気量でも小排気量でも、どんなエンジンでも大体は対応可能とのことなので、エンジンに不調を感じたら、是非井上ボーリングにご相談ください。
 
 

テキスト&フォト/モータージャーナリスト 先川 知香