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バイクを愛してしまったら、手入れしてあげたくなるのは自然なこと。

 
 
2023.03.23

 先川知香の乗って感じた!
 第17回

CB250RS by ヘッド技師 市川信行さん

井上ボーリングという会社で働く人にとって、水曜日の午後は特別。なぜなら水曜日の午後は社員全員、自由研究の時間になっているから。
 
以前、「毎週水曜日が来るたびに、従業員は『何がやりたいの?』って聞かれるわけですよ。そして 1年ごとに、自分がこの会社で何がやりたいかを自分で決めないといけない。年中会社から『君は何がやりたいの?』って聞かれている状態になるんです。そうすると、『会社というのは、自分がやりたいことを考えて自分でやるんだ』という考え方になっていくので、 2年から 3年が経つ頃には自分の会社でのポジションが生まれてくるんだと思います」と、井上ボーリングの特別な水曜日についての意義を、井上社長からお聞きしたことがありましたが、私はこれを聞いて心底、理にかなっているし理想的な働き方だと思いました。
 
誰でも、自分がやりたいことをやるのが一番楽しいし、だからこそ「好き」を仕事にしたいと翻弄する人が沢山いる一方で、それを本当の意味で叶えられる人は一握り。それなら、自分に与えられた環境を「好き」に変えてしまえばいいのです。
 

 
そして、その特別な水曜日の午後を上手く利用して、自身が担当する業務を「好き」に変える事に成功し、仕事が本当に楽しいと話してくれたのが、工程管理部長の市川 信行さん。
 
市川さんは会社の自由研究時間を使って作り上げた、ホンダ「 CB250RS」で現在も通勤を楽しんでいます。
 
そんな市川さんの趣味は、バイクいじり。「高校が三ない運動真っただ中の時代だったので、免許が取れなかったんですよ。だから、いじる方からバイクライフが始まったんだよね。免許もないのに、近所でもらった動かないヤマハのメイトを直したり。バイクの免許が欲しいと思ってから 2年ぐらいは取れなかったから、バイクいじりばかりやってたの。そのせいか、バイクは乗るよりいじる方が好きになっちゃって ()
 

 
バイクに乗るよりいじる方が好き。そんな少しマニアックな趣味を持つ市川さんは、様々ある「バイクいじり」の中でも、ヤフオクなどで安く不動車を購入し、自分好みのスタイルにカスタムを施しながら、動くようにする事が好きだそう。そうなると、エンジンのボーリングから金属加工まで幅広い設備が揃う井上ボーリングという職場は最高の環境。業務として自分のやりたい事をやっていい水曜日の午後を、活用しない手はありません。
 

 
市川さんは自由研究の材料として、ヤフオクで見つけた真っ赤な CB250RSの不動車を購入。ホンダ「シルクロード」のスイングアームや「 FT400」のメーター、そしてカワサキ「 250カジュアルスポーツ」のリアホイールとホンダ「 CB125T」のフロントホイールなど、価格・デザイン共に市川さん自身が納得したパーツを試行錯誤しながら装着し、現在通勤に使用している CB250RSを組み上げていったそうです。
 

 
ちなみに、エンジンもホンダ「 XL250R」の 6速エンジンに載せ替えられているそうで、「結構回るよ!」と自信をのぞかせる、市川さんのこだわりポイント。
 
「自分の中にあるカッコイイバイクに、現車を合わせていく。その工程がたまらなく面白いんです。もちろん性能面も考慮はしていますが、基本的には自己満足です ()」と、嬉しそうに話してくれたのがとても印象的でした。
 

 
さらに外装の塗装は、以前ホンダの工場でクルマの内装塗装を担当していた同僚の天野さんに依頼。自由研究の時間は、趣味を同じくする同僚との親睦を深める時間にもなっているようです。
 

 
また、市川さんは趣味のバイクいじりが出来る自由研究時間と自身の業務内容の相乗効果で、新たなバイクいじりの楽しみ方を見つけたそう。
「正直、仕事をしていて、とても楽しいですね。毎日、様々なバイクのエンジンが来て、ヘッドを開けると、前から憧れていたあのバイクのエンジンってこういう構造になっているんだ!とか。バイクやエンジンをいじっていると知識も付いてくるし、そうすると例えば同じ 4バルブのツインカム DOHCでも、製造された年代が違えば、これは冷却をオイル任せにして、風を当てて冷やすことは一切考えられていないエンジンだなとか、逆に積極的に風を取り入れているなとか。物によって全然違うの。それってエンジンを開けてみなきゃ分からないから、この仕事をしていないとそうそう分からないよね。製品となって置いてあるバイクのエンジンを外から見ても分からないことが、ヘッドを開けてみる事ですごく分かる。正直、憧れていたバイクでも、エンジンの構造を見て、これは自分の愛車としては絶対に手を出さないなと思う物もありますよ ()同じメーカーでも年代によって、全然違ったりするし。」
 
水曜日の午後は従来の業務ではなく、自分でやりたい事を申請して自分で考えた事をやる自由研究の時間。一見、無駄とも思える井上ボーリング特有の「業務」が、働く人のモチベーションを上げ、仕事を楽しむことに貢献。結果的に井上ボーリングの技術力がアップするという、好循環を生み出しているようです。
 

 
そんな市川さんのこだわりが詰まった、ホンダ「 CB250RS」に試乗させて頂きました。
 
まず、見た目は元々こういうバイクがあったと言われても、疑いようが無いほどの完成度の高さ。市川さんが価格と形状を吟味して選んだパーツを、社内技術を駆使して専用のステーなどを製作し、作り上げていっただけの事はあり、無理矢理付いていると感じるようなパーツは見当たりません。
 

 
そして、跨ってみると身長 165㎝の私に丁度いい感じ。足つき、ハンドルやミラーの位置など、体側を調整する事なく自然なライディングスタイルで乗ることができました。
 


 
走り出しはパワフル。アクセルを開けると、ダイレクトに前に進んでくれます。そして、最近のガソリンエンジンバイクとは違い、少し荒めのエンジンから伝わる振動が心地いい。機械式時計の 11つの歯車が嚙み合っていくように、ピストンが噛み合うようなそんな感覚をしっかりと感じさせてくれ、乗り物に乗っているというより、機械に乗っているという言葉の方がシックリとくる乗り味。エンジンの回転数にしっかりとギアが合っていないとギクシャクしてしまう操作感など、現代のバイクよりさらに自分で操っている感を体感でき、「バイク」という乗り物を「機械」として直接的に楽しめる 1台に仕上げられていました。

文/モータージャーナリスト 先川 知香