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バイクを愛してしまったら、手入れしてあげたくなるのは自然なこと。


 
2023.03.16

星の王子さまミュージアム

  写真・文/iB 代表 井上 壯太郎
 

 
先日行ってきました。
ジジイが行くような場所かって言われそうですが、おっしゃる通り。
お客は女性ばかりでした。
 

 
でも、3月いっぱいでクローズだっていうものですから。
 
飛行機少年だった僕は、サン=テグジュペリの本もよく読んでいました。
「夜間飛行」「人間の土地」「アラスへの飛行」そして「星の王子さま」
 

 
このミュージアムは「星の王子さまミュージアム」というより
「サン=テグジュペリ ミュージアム」と呼んだ方が良かったように思います。
 
ちゃんと作者の人生が描かれていて、そちらが展示のわりと大きな部分を占めているんです。
僕にはその方がよほど愉しくてよかったんですが、
多くの観覧の女子たちにとっては、飛行家としてのサン=テグジュペリなんて、
どうでもよかったのでしょう。
 
どんな飛行機に乗って、どこで遭難しようと。
 

 
パリやニューヨークで妻と暮らし、
浪費家でもあったサン=テグジュペリのことなんて。
 

 
 
 
数年前まで、関越道の上り線寄居のパーキングも星の王子さまPAだったんです。
どちらもサン=テグジュペリの生誕100周年を記念して始まったものだったようです。

 
僕はここへも何度も行きました。
 
でも、どちらも閉園を迎えることになってしまいました。
 

 
リビアの砂漠で墜落し、生還したサン=テグジュペリ。
星の王子さまのお話でもエンジンが壊れて砂漠に墜落したからこそ、
主人公のパイロットは小さな王子様に出会えたのだ、と言うこともできるでしょう。
 
そして物語ではエンジンを直してパイロットは生還します。
 
 
 
そういえば、サン=テグジュペリがライトニング機に乗ってドイツ上空で偵察飛行に勤しんでいた同じ頃、
僕の父は太平洋戦争の南の島のジャングルにいて、
事故でボートの船外機を川の中に落としてしまったのだ、と生前聞いたことがあります。
 
戦友と二人、生きるために船外機を水中から引き揚げ、
エンジンを分解・掃除してふたたび組み直して帰ってきたのだ、と。
 
戦後、日本に生きて還ってきた父が内燃機屋「井上ボーリング」を始めたのでした。
 

 
物語はしばしばエンジンから始まるのです。
 
 
箱根のミュージアムにはモルタル作りとは言えパリの街があり、
それでもある時代の空気を伝えていたようには思うのに、残念です。

 
帰って、新潮文庫「人間の土地」サン=テグジュペリ 堀口大學訳を読んでみました。
あとがきにあの宮崎駿さんがこう書いています。
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実は、速度こそが20世紀をかりたてた麻薬だった。
速度は善であり、進歩であり、優越であり、すべての物差しとなったのだ。
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速度は20世紀の麻薬。僕もその通りだと思います。
幸か不幸か、自分は速度に身を捧げることもなく21世紀まで生き残ってしまいました。
 
20世紀は「競争の世紀」でした。でも、もう20年以上前に終わりました。
21世紀は「協調の世紀」のはずです。僕たちがそうしなくてはいけません。
 
そこで僕は時々、
「今はもう、速さに意味などない。」
そうオートバイ乗りに向かってつぶやいてみるのですが、
なかなか耳を傾けてくれる人はいません。
 
ビートやオートバイに乗って訪れて
エンジンの力で空を飛ぶことや速度の意味などに想いを馳せるのに
格好の空間がもうすぐなくなってしまいます。
 
 

 
さよなら。 王子さま。