ボーリング屋とお客さん 1/2

 ボーリング屋のオヤジってーと、やっぱり偏屈なじじいを思い浮かべるんだろうねえ。最近はそん
なこたぁ、ないんだけどね。でもさ、やっぱり職人だから。つきあいにくい感じはするかもしれねえな。
ものごと、はっきり言うからね。そう思うんだろうな。
 一番困る客はさ、修理屋とチューニング屋とボーリング屋の区別がワカッてないヤツね。こっちは加工
が商売なんだからさ、どうやったら馬力が出るか、なんてことは余所へ行って聞いてもらいてんだ。
どこをどう削ったらいいかは、お客さんがきちっと指定してもらいたいんだよ。ピストンのクリアランス
なんかもね。「マニュアル」っての見れば書いてあんだろ?
 まあ、こっちも年中扱ってるようなもんなら、だいたいわかってるから、おまかせでやってもいいんだ
けどさ。寸法の指定さえ、しっかりしてりゃあ、あとはこっちはプロなんだから、どんなやっかいな寸法
だってきちっと出してやるよ。万一、寸法通り上がってなけりゃ、こっちが悪い。けど、そんなモノ、そ
のまま納めやしねえよ。
 寸法通り上がってりゃ、あとは思ったように組めようがさ、、レースで勝とうが負けようが、こっちに
は関わりのないことなんだ。ホントは。でもさ、そこは人情ってモンがあるからね。
 汚ねえジーパンはいた兄ちゃんがさ、ボロッちいバンに、バイク乗っけて来るじゃねえか。でさ、バイ
クだけはピッカピカなんだよ。「この間のレース、3位だったんですよ。」なんて言われると、やっぱ、
うれしくないことはないよね。それで「ちょっと寸法を変えてみたいんで修正をお願いしたいんですが。」
なんて言われると、つい、やってやっちゃったりしてね。いけねえんだけどさ。あんまりやってっと社長
におこられちまうからね。      加工の指示は正確にお願いします。

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