World Championships '99 REPORT




ワールズ会場となったOrland Water Sports Complex
















いやはやなんとも信じられないようなことですが、この僕、井上壮太郎が世界選手権に出場することになってしまいました!
長いこと水上スポーツを楽しんできた僕ですけれども、今年で25年目になる水上スキーではただの一度も日本代表に選ばれたことはありませんでした。
どうして、こんなことができたのか、というところからお話しましょう。
今年ワールドにベテランズというクラスが新設されたよ、というニュースを聞かされたのはワールド選考会のエントリーも目前にせまった時でした。JWBA事務局長の田中正史さんから「壮太郎さん、今回はベテランズ(40歳以上)というクラスができたから出場してもらわなくちゃ。」と言われたのです。
この一言ですべてが始まりました。まったくワールドに自分が挑戦するなんて、それまで考えてもいなかったんです。さあ、やるとなったら張り切らざるを得ません。それまでジャッジや運営側だった気分はすっぱり捨てて大会に挑戦することにしました。
さて、いざフタをあけてみると、なんとベテランズクラスの参加者は僕ひとり!さびしいじゃないですか。やっぱり40にもなってウェイクボードを競技としてやろうなんていう人はあんまりいないんですね。残念です。でもおかげで僕は、滑る前から代表当確です。選考会は楽な気分でそれなりにインバートも決めてベテランズ代表に選んでもらうことができました。なんてラッキーなんでしょう。

いざ、フロリダへ
 

一緒にフロリダへいったのは若くて才能あふれる23名の日本人チーム。今回日本チームは海外からの最大のチームであり、ワールド前夜のレセプションではふたつのチーム賞を授与されました。
  LARGEST INTERNATIONAL TEAM
  SPECIAL RECOGNITION TEAM
  のふたつの賞です。世界でも日本のチームは大きな注目をされているということですね。レセプションでは薄田会長とともに選手全員がステージにあがり、暖かい拍手につつまれたんですよ。
  さて、大会では日本の誇る優れたプロやトップアマの選手達が果敢に世界の壁に挑んでいきます。みんな国内では敵なしの実力者たちとはいえ、世界のトップに混じっての大会となるとそれぞれ緊張したり、意気込んだり、さまざまな表情で出走していきます。会場となったOWC(OrlandWatersports Complex) はウェイクボードと水上スキーのために専用に掘られた人工の池です。フリーウェイからもよく見通すことができる会場にはケーブルスキーのシステムが2機設置され、一般の人も気軽にウェイクボード、水上スキーを楽しむことができるようになっています。
 
        (写真はスタートするDarin Shapiro)
 

 
   予選に出走
 
  次々に予選へと滑り出ていく日本人選手達。中でも僕はマスターズのふたりについで予選初日の朝のスタートでした。実はベテランズクラスにどんな参加者がどれだけいるのか、いろいろと調べたのですが、それがわかったのは当日の朝。どこのスクールやプロ選手に聞いても「40以上でコンペに出るような選手?僕の知り合いにはいないなあ。」という返事ばかりです。そしていざスターティングリストを見ると、なんと参加者は全部でたったの4名だったのです。
  そうかあ、やっぱりウェイクボードというスポーツ自体がまだ歴史の若いスポーツなんだな、ということを痛感させられました。そして、選手同士自己紹介と握手をしながら、ちらっと実力のほどをさぐってみました。すると、どうやらひとりの選手が飛び抜けてレベルが高く、ルーティンもすべてインバーティッドトリック(宙返り)のようです。そしてあとの二人はまだインバーティッドはひとつも確実にはメイクできないようす。 さて、そうして迎えた予選。僕は手堅く3縦、1横、6グラブ系というルーティンを組み立て出走しました。これならよほどのことがなければ決勝には出られるだろうというルーティンでした。
  トーボートはリアエンジン、VドライブのSuper Air Nautiqueです。水面に出てみるとまったくウェイトを積んでいないようすだったのに、物凄い大きなウェイキがたっています。また、OWCの水はココア色に濁っていて、その茶色い水がそそりたっています。「うわー!こんな巨大なウェイキに吹っ飛ばされて一発ゴケしたらどうしよう?!」そんな恐怖感を集中力で押さえ付けながら、思いきって最初のメランコリーから飛んでいきました。
 

結果は2縦1横6グラブをメイクして(最後のロールトゥリバートだけ失敗)無事予定どおりの2位で予選を通過することができました。
  たくさんの選手が出場した日本チームですが、やはり世界の壁は厚く予選を無事通過したのは、Ama Womanのクラスの大屋葉志子さんとOpen Men クラスに出場した太田秀之プロ、そして僕の3人だけでした。あの成田兄弟やズッキー(鈴木利光プロ)、マット(高岩正人プロ)えびちゃん(海老原洋子プロ)でさえ予選を通過することはできなかったのです。
 
  ついに決勝

  さて、いよいよ決勝です。予選の金曜日にはそれほどではなかったのですが、週末ともなるとやはりかなりな人出で会場は溢れています。たくさんのボードメーカーやノーティクのテント、派手なバナーやバルーン、ファーストフードの出店などもあり、派手に英語でまくしたてるDJの声に乗せられて、会場の雰囲気は大いに盛り上がっています。
  土曜日の午前中にAma Womenの決勝が行われ、よっちゃん(大屋葉志子さん)が見事五位になりながら、本人は予選で決まったスケアクロウが決勝では決まらなかったためなのか、ここ数日緊張の余り眠れなかったせいなのか、ライディングが終わった後には大粒の涙を流していました。泣くことなんかないよ、立派な成績じゃないですか。
  そしていよいよ僕の出番ベテランズクラスの決勝が始まります。どうがんばっても2位ということはわかってはいましたけれども、それでもなんとか少しでもいい結果をだしたい。そして僕のあとに滑る1位の選手にプレッシャー与えなくては、ということで、決勝はリスクをおかして勝負のルーティンを考えました。
  そうは言ってもできないトリックをいれることもできず、4縦、横1、6グラブです。ですが、もしこれを完走することができれば少なくとも1位の選手の昨日の内容よりはだいぶ上にいけるはずです。実は10縦ができるとはいえ、トップの選手も予選では4縦くらいでフォールしていたのです。「プレッシャーをかけて動揺させることができれば、僕にもまったくチャンスが無いわけではない。」これが僕の読みでした。
  3位の選手ががいくつかのグラブを決め、360に失敗してライディングを終えました。僕の出番はあっと言う間にやってきました。
  「これがワールドの決勝なんだ。おそらく僕には二度と訪れることのない、国際大会で活躍する最後のチャンス。僕の長い水上スポーツ生活の、たった一度のハイライトなんだ!」
  僕は自分に言い聞かせようとしました。
  ですが、どうしたことでしょう。いつもの緊張感が込み上げてきません。
  気持ちの整理がつかないまま、僕は出走しました。短いターンを終えて1st.passに入って行きます。最初は得意のメランコリー。これを決めたあと、大きくカットアウトして岸に近付いた僕は岸のオーディアンスに向かって「Right on Everybody!」と大声で叫んでみました。どれだけのレスポンスがあったのかはわかりません。
 

そのままトリックを続けロールを二つ決めて、1st.Pass最後のタントラム。僕はふだん練習であまりできないこのトリックを、今まで日本の大会の決勝では気力で必ずメイクしてきました。今回もこのトリックにいちかばちか賭けてみたのです。思いきってタイミングを遅らせてリリース!ぐるっと回って脚からおちた、よし!でも、ハンドルはもぎとられるように右手を離れていってしまいました。
  僕の闘争心はここまででした。あのタントラムにさえ、成功していれば、そのあとも戦えたとおもうのですが、2nd.Passは360で痛恨の転倒、ローリバに挑戦することもなく、僕のワールドは終わってしまいました。すぐあとに1位の選手が5縦を決めて順当に得点をとったようです。
 
 「2位だ2位だ2位だ2位だ2位だ2位だ2位だ2位だ2位だ!」
 
 僕はなんどとなく自分に言い聞かせました。この結果を自分に受け入れさせなくてはならなかったのです。
  なんとも悔しい結果でした。できることをきちっとやれば、チャンスもあっただけに。でも、これが大会、これが実力という言葉のほんとうの意味なんですよね。
  こうして僕はワールドベテランズクラス2位という結果を得ました。
 

みんなが口々におめでとう!と言って、暖かく僕を迎えてくれました。日本人の男性ライダーでワールドの表賞台に立ったのは、僕が最初だと言ってほめてくれました。でも、でも、でも、、、、、、。
 
  戦い終わって

  若い才能あるライダーの中に混じって、たんに年寄りであるというその一点だけを評価されて、僕は表彰台に立ちました。それはとても皮肉なことのようにも思えますけれども、それでも長い間ウォータースポーツに関わり続けた僕に、水遊びの神様がくれた最高のご褒美だったんだろう、と今はこの結果をほんとに嬉しく受け止めることができるようになりました。 いままで、僕を支えてくれた水上スキー界、ウェイクボード界のすべてのみなさんに感謝したい気持ちでいっぱいです。そして僕のわがままを許してくれる家族と妻にも。 どうもありがとうございました。
 


 
 
   Photo Naoko Inoue &
   鈴木麻紗美ちゃんのお父さんpapa鈴木さん
   Text SOTARO Inoue
 
 

 
 

 
 

 
 


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